書評-君は,こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?

「君は,こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?」という本を読みました。

この本を書いた田村耕太郎さんは,鳥取出身で,参議院議員の経験を持っている方です。本の最初から最後まで,日本の兄貴として日本の若者を励ましてやろうという思いが前面にあふれています。つまり書き方が言い切り口調で,「俺は知っているからお前たちに教えてやる」という感じです。一番最初の書き出しから「これからの人生に悩んでいる君たち。悩むには知識が必要だ。」という具合で,この段階で拒否反応が出てしまう場合,最後まで読むのは難しいかと思います。けれどもこの本には田村さんのこれまでの経験と感じたことがとても正直に書かれていて,有益な情報もあると感じました。

例えば,「学生が海外に出て学ぶとしたら,どの国を狙うのが良いか」という視点で書かれた部分があります。仕事としてアジアを狙うなら結局英語だから,まずはアメリカに行くのが良い,と田村さんは述べます。さらに,予算の都合があればシンガポールが良い。さらにインドに賭けてみるのはどうか,と続きます。どれも田村さんの正直な意見が述べられていて,一つの考え方として知ることができます。

でもこの本は,英語に偏りすぎている印象を受けます。確かに英語は役に立つし,これからの世界も変わらずイギリスとアメリカが進めていく限り,英語中心の世の中なのでしょう。けれども,海外で働く,他の国の人たちと知り合うそんな局面では,タイならタイ語,中国なら中国語,ベトナムならベトナム語,現地の言葉に取り組むことが自分だけの武器,自分だけの方向性を持つことができることも忘れたくありません。本の中で田村さんも述べていますが,日本という国がどれだけ世界の中で重要な位置を占めているかということを私たちは意識する必要があります。それは一度日本を離れることによってはっきりと理解できるようになるという点において,私も田村さんと全く同意見です。しかし,日本語と英語を橋渡しするだけではなくて,日本語とタイ語,日本語と中国語,日本語とベトナム語,そういった現地語との橋渡しをするということも,これからの日本人が楽しんで仕事できる分野だと思っているので,その点の言及が少なったのが残念でした。例えば,日本人が中国語を話せるようになることと,中国人が日本語を話せるようになることにはどんな違いがあるのかなど書いてくれたら面白かっただろうにと思います。日本語を話せる海外人材が増えていることについての言及はありましたが,「だから,日本人が日本語を話せるだけでは危ないのだ」という一方的な書き方だったのがちょっと気になりました。

それで,この本のタイトルは,若者に海外を見に行くよう勧める本のように感じますが,実際の所は「20~30歳の皆さんが英語を自分のものにして海外で勝負するにはどうすればよいか。そして,海外経験を経て日本を盛り上げてくれ!」といった内容です。英語の勉強法などもかなり書かれていました。

この本らしさが出ている一文を紹介します。これは,加藤嘉一さんへのインタビューなので田村さん自身の言葉ではありませんが,こういった内容を収録することに決めたのは田村さんでしょうから,何らか感じられると思います。

「(中国留学について)留学の参考になる中国のサイトや,完璧に信頼のおける情報源はありません。自分で実際にやってみる以上に,本当に信頼できる情報はないのです。私の考えでは,サイトや窓口に頼った瞬間,中国留学の失敗率は50%上がると思います。行ってみようかなという好奇心が沸いてきたら,まずは中国の地図を見て,この辺がいいかなという目安をつける。あとは速攻で格安航空券を購入して飛ぶだけ。それが最も効果的で,たしかな留学方法でしょう。着陸した先で見えたもの,出会った人がすべて学ぶ糧になります。」

なるほど,と思わされるような,でも何だかそのまま受け取るわけにはいかないな,というような,励まされながらだまされているような気分になります。そんな箇所が沢山ある本です。それにしても「地図を見てこの辺がいいかなという目安をつける」ことができる人っていったいどんな人なのでしょう。

また,田村さんお勧めとなっている本も紹介しておきます。
「種の起源」チャールズ・ダーウィン
「人生の短さについて」ルキウス・アンナエウス・セネカ
「君主論」ニッコロ・マキャベリ
「国富論」アダム・スミス

2012年6月の本ですから,少々古くなっているものの,海外に目を向け始めた若者はもちろん,海外での仕事が気になる30代も,実際に海外で活動し始めた日本人にとっても,「わかるわかる」という面白さ満載です。

田村さんのちょっと普通ではない生き様を赤裸々にお聞きするのに,1300円ぐらい払っても良いのでは。中古がベストですかね。最後に一体この人は何をした,何を成し遂げている人なのだろうという素朴な疑問が沸けば,この本を読んだ本当の価値がある気がします。

僕らは何も知らずに船に乗る

僕らは全員,とある船に乗る必要があって,必ず乗り込む。もしくは,自分の意志とは関係なくすでに乗り込んでいる。でも,僕らはその船の本当の行先を知らない。どんな経路をたどって,どこに到着するのかを知りたいけれど,知ることができない。いや,一つだけ行先を知っている。死ぬこと。どんなに死にたくなくても,死にたくて死ぬとしても,必ず死ぬにたどり着く。

この世の中に命を得て生まれてきた時に,家族という船に乗っている。家族という船は,だいたい幸福に向かって進んでいることが多い。けれど,親同士の関係が悪くなったり,経済的に壊れてしまったりする。船がバラバラになってしまうこともある。もちろん,仲の良い状態が続き,お金も十分にあって,その航海が素晴らしいものであることもある。

学校という船にも乗る。多くの場合,自分の思い通りの学校に進むことなどできない。というか,乗ろうと思う学校での自分の生活を入学前に十分に知ることなどできない。卒業や退学にあたって,その学校で良かったのかどうかなどわかることなどあまりない。同時期に他の学校にも所属することなど普通できない。

どんな会社でどんな人たちと仕事をするか,働き口という船にも乗る。どの会社に乗り込めばうまく行くのかなんて,はっきり言って全然わからない。わからないのに,いくらかの限られた条件を元に自分で乗り込まなきゃならない。もしくは家族の仕事を手伝ったり,個人事業主となって仕事を始める。働き口という船の進み具合が自分に与える影響はとても大きい。乗り込んでみて,進んでみて,ようやく船がどこに向かっているのか分かってくる。船が進んでいくと,船の中で自分が果たせる役割が少しずつ分かってくる。乗り込む時点ではほとんど分からないことが,乗り進むと分かってくる。変な船に乗ってしまって降りたくなることもあるが,なかなか降りるのは大変だ。別の船に乗りたくもなるが,一度降りて,また別の大きな船に乗り込むのは一苦労だ。そして,やはり次に乗る船もまた,乗り込む前にその船の事を知ることはできないのだ。

結婚のパートナーを選び,自分の家族を持つという船もある。この船には乗ってもいいし,乗らなくてもいい。けれど,この船のことを,とても長い間考えることになる。やっぱりこれも,「どのパートナーと組めばうまく行くのかなんて,組む前にはわからない」。そして,「乗り進んでみて,ようやくどこに向かっているのか分かってくる」し,「変な船に乗ってしまって降りたくなることもある」。

友人を選ぶという船もある。子供を作るかどうかという船もある。どこに住むのかという船もある。

いつもいつも僕らは,乗り込まなきゃならない船のことを何も知らない。いや,乗る前には知ることができないのだ。けど乗らなきゃならない。

何も知らずに船に乗り込むことの繰り返しが人生なんだなと思う。

#長いこと書かずにいましたが,久しぶりに書きたくなってきました。
#2015/1-2015/3前半まで,サーバーのトラブルによりサイトが止まっていました。